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孝行鰻こうこううなぎ
天保六年
宮後町で生まれた奥田文左衛門の三男、
文三郎は子供のときに両親に先立たれ、
隣家の左官屋に引き取られ、
弥吉という名に改めて左官の見習いをしていたが、
生計が十分でないので内職にうなぎのかば焼きをはじめた。
重箱にかば焼きを入れ、
風呂敷に包んで雨の日も風の日も山田の町中を売り歩き、
夜は翌日の準備をし、
自分の身は少しもおかまいなしに養父母に尽くし、
行商で見聞してきた話を毎日父母に聞かせて
喜ばせるのを楽しみとする孝行ぶりを、
誰いうともなく「孝行鰻」と愛顧した。
山田奉行がこれを聞き、
感心な息子だと銅五貫を与えて表彰した。
弥吉は明治二十一年に五四歳で世を去り、
その子の文吉が明治二十六年に実家を再起させ、
うなぎの飯屋を継ぎ、
家運隆昌、伊勢市宮町の割烹旅館「奥文楼」となる。
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